内的家族システム療法(IFS)とは? 〜全体像ざっくり解説〜

この記事では、現在世界中で大人気の
エビデンスのあるトラウマ療法であり生き方の哲学である

内的家族システム療法(IFS)

について、その全体像をざっくり解説しています。

もしあなたが、生きづらさや孤独感に悩んでいたり、
なかなか人間関係がうまくいかないと感じていたり、
自己探求を続けても今ひとつ掴めた感じがしないなら、
ぜひ、最後まで読んでみてください。

人生が変わるきっかけになるかもしれません。

目次

心の中に、いくつも心がある!?

と聞くと、とまどう人がいるかもしれませんね。
でも、ちょっと考えてみたら自然なことだと気づくはずです。

例えば、仕事帰りで疲れているとき。
コンビニに立ち寄ると、美味しそうな新作お菓子を発見。
あなたの頭の中ではこんな会話がされてませんか?

うわー、どんな味だろう。食べたい!

でも、ダイエット中だし…ダメダメ!

えー、でもちょっとだけなら……

「食べたい!」という声と、「ダメ!」という声。
IFSでは、それぞれを独立した副人格として捉えます。
そして、その人の一部 ‘a part of me’ という意味で
副人格のことをパーツ Partsと呼びます。

例えば、仕事では頭が切れて、
周りから一目置かれているけど
家族に見せる姿はまるで別人、
だらしなくていい加減で、
週末はゲーム廃人なお父さん、とか。

そんなふうに、
一人の人間にもいろんな側面
つまり、それぞれ個性を持った
複数のパーツがあるのです。

パーツとは?

普段から何気なくしている脳内会話の主達の声を、
偏見や思い込みのない
純粋な好奇心から受け取っていくと、

私たちが意識していなかったような、
パーツ の意図や願い、恐れていることなどが
少しずつ明確になってきます。

そして多くの場合、
あなたが抱えている困りごとやお悩みは、
あなたというシステムを
それぞれユニークな方法で守っている
パーツの声であることが多いです。

パーツの種類

何人もパーツがいるのは分かった。じゃあどんな種類のパーツがいるの?

パーツは、まず大きく分けて 守る役目のパーツと、
普段は意識の奥底に隠されている
傷や痛みを抱えたままのパーツとに分けられます。

守る役目のパーツは 防衛パーツ Protector と呼ばれ、
防衛スタイルの違いから、

  • 管理者 Manager
  • 消防士 Firefighter

に分けられます。

管理者パーツ Managers

管理者パーツは、
日頃から日常生活を回していくために活躍している人たちで、
過去の辛い体験を繰り返さないために、
先回りしたり準備したりします。

管理者パーツの例

  • 完璧主義
  • 仕切り屋さん
  • 見た目に気を遣う
  • 批判する人
  • 常に警戒している

彼らのモットーは
ネバーアゲイン:同じ過ちを繰り返さない
です。

二度と失敗しないゾー!!

消防士パーツ Fire Fighters

消防士はその名のとおり、
痛みの炎を一刻も早く揉み消すために
瞬時に稼働するパーツです。

心の傷の出火を察知すると、
どかどかと土足で部屋に踏み込み、
バババーっ!と痛みの火を消し去ります。
ただ、その消火の仕方が
手段を選ばず
後先を考えないので、
後で困ったことになることが多いです。

消防士パーツの例

  • 急に激しく怒り出す
  • 薬物、アルコール依存
  • 現実感がなくなる、解離
  • 浪費
  • 動画を何時間も見続ける
  • 過食、やけ食い

止めなきゃと思っても、ついつい見続けちゃうんだよねー

追放者パーツ Exiles

管理者パーツも消防士パーツも、
守る役目をしているのですが、

その下には
辛い体験をして、
受けた傷や衝撃を抱えたまま、
過去に凍っているパーツがいます。
それが 追放者 Exiles です。
インナーチャイルドとも言われます。

自然災害や事故など、明らかなトラウマ的体験はもちろんですが、
家族や身近な人々との関係で繰り返し起きることも含まれます。
はたから見るとたいしたことでないように見えても、
衝撃を受けて身の危険を感じたなら、
本人にとってはそれが心理的な真実です。

追放者パーツの辛い体験の例

  • 理解してもらえなかった
  • 家族の言い争い
  • 病気
  • 兄弟の存在
  • 虐待、育児放棄
  • 事故、災害、犯罪
  • いじめ、仲間はずれ

追放者パーツは、その体験から、
「自分には価値がない」
「たった一人だ」
「悪いのは自分」
と信じ込んでいきます。

そして当時受けた衝撃や、
行動に移せなかったエネルギーを
抱えたままでいます。

これらのビリーフや感情、エネルギーが
何年も何十年も体に残ったまま、
傷口が開いたままでは、
防衛パーツは常にがんばり続けなければなりません。
この状態は、
あなたというシステムが疲弊する
大きな原因の一つになります。

普通に生活してるのに、何でこんなに疲れるのかな……

重荷 Burdens 負荷

このようなビリーフや強い感情、エネルギーなどを
IFSでは 重荷(負荷)Burdens と言います。
重荷は追放者だけでなく、管理者や消防士パーツも
極端な役割として背負っています。

それらの重荷を背負ったままで、
パーツは責任のある仕事をやり続けなければならず、
実はとても疲れていたりします。

重いーー💦

IFSセッションでは、これらの重荷を安全に下ろすのを助けることで、
パーツが過去の辛さから自由になったり、
より良い方法で守ることができるようになることを目的としています。

ここまで、パーツについて説明しましたが、
いかがだったでしょうか。
あなたには、どんなパーツがいそうですか?

で、実はここからが、
IFSを理解する上で
特に大切な話になります。

オッケー!…どんな話だろ

セルフ Self

それは セルフ Self
または セルフエネルギー Self Energy 
という概念です。
この項目は文章だけでは伝わりづらいので、
できるだけ体験的な感覚を思い出しながら読んでみてください。

セルフとは、その人の中心的な自己意識、いわゆる意識の座です。

元々まったく精神世界に興味のなかった
IFS創始者のリチャード・シュワルツ博士が
若いシステム家族療法士だった頃、
摂食障害などの生きづらさを抱えた患者さんが
パーツの話をするのに遭遇し、
もしかしたら
外側の家族関係がお互い影響し合うように
内側にも似たシステムがあるのかもしれないと
パーツの存在を意識するようになりました。
そして、過食や自傷行為など、
極端な役割のパーツを
邪魔者扱いするのではなく、
なぜそのように振る舞うのか
純粋な好奇心を持って
パーツと接するようになります。

そして、
クライアントさんのパーツがリラックスすると、
パーツではない、
落ち着いて心が開いていて思いやりがある
中心的な人格(セルフ)
になるのを目撃し続けました。

また、セルフの状態からパーツに意識を向けていくことで
深い癒しが起きることが分かり、
そのように臨床現場で観察されたことをもとに、
IFSモデルが発展していきます。

セルフは生まれたときから、
すべての人に備わっています。
何千年と続く伝統的な宗教や神秘主義の奥義では、

クエーカー教では、インナーライト
仏教では、仏性
ヒンドゥー教では、アートマン、真我 
(Schwartz & Falconar 2017)
瞑想やヨガなどの精神、身体修養では、エッセンス、コアセルフ
プラーナ、気 とも表現されます。

キリスト教では、神の似姿や、聖霊の宿る場所 
また個人的には、セルフエネルギーは
循環する健やかな生命力そのものだと感じています。

ここで、一つ強調しておきたいことがあります。
注意点なのですが
セルフはパーツではありません


こう書くと、セルフって何か特別な感じがしますが、
人間みな生まれたときから備わっているので、
新たに獲得する必要はありません。

強い感情や信条を持つパーツが
人のシステムをハイジャックしているとき、
パーツが徐々にリラックスするに従って
セルフエネルギーが増してきます(非ブレンド化

セルフの状態は、
自然の中で、のびのび
ゆったりする感じや、
大好きな人や機嫌のいい赤ちゃん、
ペットと一緒にいるときの感覚と
思ってもらえたらOKです。
心配事など
すべてを一旦横に置いたときに顔を出す
素の自分 という感じでしょうか。

自分にどれくらいセルフエネルギーがあるか、
知りたいですか?

セルフの特徴は、IFSでは8つの質としてまとめられています。
下のリストを見て、
1、2個を感じていれば
セルフケアや自分でパーツワークを始めるのに十分です。

セルフの特徴 8C

  • 落ち着き
  • 勇気
  • 自信
  • つながり
  • 創造性
  • 慈愛
  • 明瞭さ
  • 好奇心

また、

  • 頭のおしゃべりがスッと静かになり
  • 内的な空間が広がった感覚
  • オープンマインド
  • 手先がピリピリした感じ
  • 腹がすわった感じ

のように感じられることもあります。
人によって違うので、セッションで体感してみるのがいいかもです!

※カウンセラーや心理職など、セッションを提供する側の方へ

セルフエネルギーが十分でない状態で、
IFSを用いて追放者パーツの重荷を下ろすプロセスを扱うのは、
再トラウマ化を招く危険があります。
このため、公式トレーニングを修了するまでは、
トラウマの場面を扱うときには、
すでにお使いのセラピー手法に切り替えていただくことが推奨されています。

もちろん、IFSで防衛パーツを扱うことはおすすめです。

( 出典:Internal Family Systems Skills Training Manual   by Frank Anderson MD et al. p.119)

※ 誠実さと、元医師として ‘non-maleficence’ の価値観を大切にしている私のパーツの声として受け取っていただけたら幸いです。

パーツとセルフの関係

以上、パーツとセルフについてざっくり説明しました。

ここまで読んでみて、
もしかしたらあなたは、
セルフが偉くてパーツが下なんじゃないか?
と思われたかもしれません。

これも、よく誤解されるところです。

パーツとセルフは互いに補い合い、
必要不可欠な存在です。

パーツだけでは、心の平安や統合が得られにくいし
セルフだけでは、日常生活が効率的に回りません。

悪いパーツはいない No Bad Parts

IFSでは基本的に
悪いパーツは存在しません。

薬物依存など問題行動のパーツも、
重荷を背負ったまま、
そのパーツのできるベストな方法で、
痛みを消す仕事をしているだけです。
そういう意味では、
鎮痛剤を飲むのとあまり変わりません。

私がIFSに非常な信頼を置いている理由の一つに、
IFSはすべてにおいて
病的な扱いをしない ことが挙げられます。

うつや強迫症など
診断名がついていても、
その人を異常と捉えるのではなく、

どのパーツが過剰な働きをしているか、
心の中でどんな葛藤が起きているのか、

どうすれば重荷を背負っているパーツ達が
その人のセルフエネルギーを感じ、
セルフとの信頼関係を高めていけるか
にフォーカスします。

IFSセラピストの役割

IFSセラピストは
簡単な質問や提案を通して、
クライアントさんが十分にセルフエネルギーを保っている、
つまりセルフの状態であることを確認しながら
セッションを進めていきます。
ジャッジメントなしに
そのままを受け入れて分かってもらう経験をすると、
パーツはセルフを信頼しはじめます。

セルフがパーツの抱えている傷や痛みを感じ取り、
パーツの気持ちに寄り添い続けると、
重荷を下ろす準備ができます。

重荷を下ろして身軽になり、
新しい質を備えるまでの
パーツの変容と統合の場に立ち会うのは、
毎回神聖な経験です。

重荷を降ろしたパーツは本来の姿を取り戻し、
やりたいことをやれるようになります。
セルフとの関係性も引き続き育まれます。

こうしてあなたというシステムの変容と統合を重ねながら、
セルフは内的なリーダーとして、パーツ達を率いていきます。
この状態を セルフ主導 Self led と言います。

セルフ主導

セルフ主導が可能になると、
実世界の人間関係も変わります。

これまで苦手だった人がそうでもなくなり、
他人の言動に一喜一憂することが減り、
嫌いだった人の愛すべき側面が見えてきて、
好きになったりもします。
感覚過敏なども軽減されることが多いです。

社会活動にもより積極的に参加したり、
新しいことに挑戦する勇気が出てきます。
そんな中、いつの間にか自分軸や、
しなやかなバウンダリーができているのに
ふとした瞬間に気づくことでしょう。

また、これまであまり感情や現実感を感じてこなかった人は、
生きているという実感や生の感情を味わうようになります。

人生で失敗や挫折を経験しても、困難の中にあっても
圧倒されることは減り、
健全な回復力(レジリエンス)があることにも気づくでしょう。

みんな大切な存在なんだね

このように、クライアントさんがセルフ主導で生きていけるようになるのが
IFSセラピーのゴールで、
実際にそうなることが可能です。

というのも、私自身も
そのような大きな変化があっただけでなく、
セルフ主導で生きている人々が世界中にいるからです。

最後に

あなたが本来の力を十二分に発揮し、
生き生きと自分らしく生きていけること。

そうすることにより、
家族や友人など、あなたの近しい人々が良い影響を受けること。

その影響が職場やコミュニティにまで及ぶこと。
ひいては、これからの日本全体が癒されて
世界が驚くような癒しの力に満ちた国になること。

IFSセラピストとして、私はそんなことを本気で考え、願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
IFSに興味を持っていただけたら嬉しいです。


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