『誰も傷つけたくない』
『誰も傷つかないでいて欲しい』
わたしはこれらの想いを持ちながら、長い間傷つくことを繰り返していました。
なぜか?
それは、願いがかなわないと知りつつもなお、
この壊れた世の中で、生き続けていかなければならなかったからです。
傷ついた世の中で、傷つけられた人は、相手を傷つけます。そして自分自身も傷つけます。
負の連鎖。防御反応。
世の中は、変わることなく、私たちを傷つけ続ける。
それは止むことはない。
それに人の本質は変わらない。人は死ぬ。病気になる。
医師として働いていた頃、どんなにがんばっても、どんなに心を砕いても
亡くなる方がいて(当たり前です、人は100%死にます)
そのたびに、悲しい思いをしました。
感情移入だけでは、何も変わりません。
けれども、人間には、もう一つの本質があります。
それは、死を前提としていません。
いのちを前提としています。
死期が迫り、体はもう起き上がることもできないのに、
穏やかな表情で日々を過ごされる患者さんがいました。
重くのしかかっている重圧を天にあずけて、
置かれた場所で、できることをし続ける方もいらっしゃいました。
緩和ケア病棟で、最後の日々を生きておられる人達と時間を過ごすと、
何気ない毎日が宝物で、奇跡のように思えてきます。
社会から切り離されて、孤独に悩んでいた、あるがん患者さんは、
痛みが辛く、どれだけ鎮痛薬を増加しても明らかな改善が認められませんでした。
でも結果的に、薬の量を3分の1まで減らすことができただけでなく、痛みそのものも、ぐっと良くなりました。
表情も、明るく穏やかになられて、本来の快活さが前面に出てきました。
ワイワイするのが好きで、後に院内でのカラオケ大会を主宰したことも。
変化のあった数日間に、何が起こったのか?
わたし達担当チームは、その方の状況から彼が何を求めているのか(ニーズ)を推測し、
ゆっくりと彼の話に耳を傾けました。
彼の心が開くにつれ、寂しさ、人とのつながりを求めておられたことが分かり、
わたし達は、彼の心の声を聞いてそれを理解し、それぞれの役割に応じて心からの対応するように努めました。
繰り返しますが、その間たった数日です。
彼と私たちの心と心がつながったことで、症状が劇的に改善しました。
人の本質とは、この美しさだと思います。
いのち同士の響き合い、つながる力。いのちそのものの輝き。
IFS的には、セルフ(Self) という呼ばれるものです。
その後わたしの人生に変化があって、今はトラウマを癒すセラピストとして活動していますが、
気持ち的には、医師だったときとまったく変わりません。
一人でも多くの人が、辛さから解放されて楽になって欲しい。
傷が癒されて欲しい。体の傷も心の傷も。たましいの傷も。
幸い、医師として働いた経験と知識があるので、
その方の状況を、心身ともにより広く深く理解することができます。
この仕事のために、HSP(敏感で繊細)という資質をもらったのだとも思っています。
どうか一人でも、一つのパーツでも、解き放たれて楽になりますように。
毎日願っています。そして傷つくどころか、その可能性に強い希望を感じていて、
セッションをするたびに、その確信が強まります。
なんといっても、あれだけ世界や自分自身に不信感のあったこのわたしが、
今はこの壊れた世界で、喜びと共に生きることができるようになったのですから。
あなたにもそうなって欲しいな、と心から願っています。